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東京高等裁判所 昭和43年(行コ)51号 判決

控訴人(被告) 仙台通商産業局長

被控訴人(原告) 旭礦末資料合資会社

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は原判決事実摘示と同一であるからその記載をここに引用する。

理由

被控訴人が主張のとおりの鉱業権設定の出願をなしていたのに、控訴人が被控訴人の後から出願した訴外組合に許可したため被控訴人が通商産業大臣に異議の申出をなしたが右異議の申立は棄却されたとの被控訴人主張の事実は控訴人の認めるところである。

本件の争点は右訴外組合が被控訴人に対し優先権を有する出願者であるかどうかの点であるのでその点について判断する。

訴外組合が被控訴人の鉱業権設定を出願した昭和二十六年二月二十三日後の昭和二十七年三月三十一日本件区域の土地の所有権を取得したものであることは本件当事者間に争がない。ところで鉱業法施行法第七条は「土地の所有者」とのみ規定し、同法第四条ないし第六条のように「承継人」の文言が附加されていないことは被控訴人主張のとおりであるけれども右各法条には「新法施行の当時を基準」とする趣旨を規定しているので、その後の承継人について言及する必要があつたのであるが、所有者について新法施行当時に限定する文言はないので、承継人について特に言及する必要がないだけのことであり、又同法第七条で土地の所有者に優先権を認めたのは本来土地の一部を構成していたものを鉱物として指定することにより所有権の内容を制限することになるため可及的に土地の所有権を保護する目的によるもので同法第四条から第六条のように「鉱業法施行の際の特定の者の保護」を目的として規定されたのとは異なり同法施行後の土地所有権取得者も同法の土地の所有者に含まれると解するのが同条規定の趣旨から考えても相当である。従つて同法条に「承継人」の文言がないことを理由に鉱業法施行後の土地所有権の取得者を含まないと解すべきものではない。

(右の如き取得者でも、他の出願者に許可処分が未だなされていない限り、優先権が与えられても、法的には何等の支障もないであろう)

被控訴人は昭和二十六年九月八日資庁第五五〇号を根拠に同日以降の国有林野地の所有権取得者は同法施行法第七条の優先権を主張し得ないと主張するけれども右資庁第五五〇号の如きは、同じく国の行政機関間の事務の簡易化を図つたものにすぎず、訴外組合は自作農創設特別措置法第四十一条に基く売渡処分によつて本件区域の土地所有権を取得したものであることは原判決の理由中(原判決十四枚目の裏の末行(注、本書一九六五ページ四行目)より十五枚目の裏四行目(同上、同ページ一一行目)までを引用する)に認定しているとおりで前記通達により本件土地についての所有者である訴外組合に前第七条の通知を省略しうるものとは解されず、まして優先権放棄の意思表示がなされていると擬制することはできない。そうだとすると控訴人の被控訴人の出願方の通知に基いて法定の三十日以内に出願を申出た(右事実は当事者間に争いない)訴外組合は同法第七条に規定する優先権を有するものというべく、従つて被控訴人に優先するものとして右組合に与えられた許可処分には何等違法の点はないものと云わざるを得ない。

本件は控訴人からの訴外組合に対する被控訴人の出願方の通知が被控訴人の出願日から五年余を経た時点でなされ、訴外組合に対する許可も訴外組合の出願後二年余を経てからなされていること(以上の事実は当事者間に争いない)が、本件許可処分の、不当なるかの観を与えるけれども右の事実は本件許可処分自体の適法、違法の判断には影響のないものというべく、「鉱業法施行の日から六ケ月以内に出願のあつた場合にのみ同法施行法第七条の通知がなさるべきであり且つ土地所有者からの出願も右六ケ月を著しく経過しないうちになされた場合に限り優先権が認められるにすぎないもの」と解しなければならない法的根拠はない。

以上判示のとおり被控訴人の本件許可処分の取消を求める請求は理由がなく失当であり、右と趣を異にして右請求を正当として認容した原判決は失当であるから民事訴訟法第三百八十六条により原判決を取消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 石田哲一 矢ケ崎武勝)

原審判決の主文、事実および理由

主文

被告の左記鉱業権設定出願に対する許可処分を取消す。

処分の年月日 昭和三三年七月二八日

処分の相手方 白山牧野利用農業協同組合

出願区域   福島県田村郡大越町地内

(別紙(二)記載の区域)

出願年月日  昭和三一年三月二八日

登録年月日  昭和三三年八月一四日

登録番号   福島県採掘権登録第九二五号

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

(原告)

主文同旨の判決を求める。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

一、原告は昭和二六年二月二三日別紙(一)記載の区域に石灰石、ドロマイトを目的として鉱業権(採掘権)設定の出願をした。

二、訴外白山牧野利用農業協同組合(以下訴外組合という。)は昭和三一年三月二八日原告の出願区域中、別紙(二)記載の区域(以下本件区域という)について石灰石を目的として鉱業権(採掘権)設定の出願をし、被告は昭和三三年七月二八日右出願を許可した。

右許可は同年八月一四日登録され福島県採掘権登録第九二五号となつた。

三、原告の鉱業出願は、鉱業法二七条による第一順位の出願であり、それより後順位である訴外組合に対する被告の右許可処分は違法である。

四、そこで、原告は昭和三三年九月一三日通商産業大臣に対し、右処分につき異議を申立てたところ、同大臣は昭和四一年三月三〇日付三三鉱第七三六号決定をもつて右異議の申立てを棄却した。

五、よつて原告は被告の訴外組合に対する右許可処分の取消を求める。

第三請求の原因に対する答弁

第一項 認める。

第二項 認める。

第三項 原告の鉱業出願は鉱業法二七条によれば第一順位の出願であつたこと及び被告が、同条によれば後順位である訴外組合の鉱業出願に対し許可処分をしたことは認めるが鉱業法施行法(以下単に施行法という)第七条によれば、原告は後順位者になる。したがつて、本件許可処分が違法であるとの主張は誤りである。

第四項 認める。

第四被告の主張

訴外組合は本件区域について、施行法七条二項に規定する優先権を有する者であつた。

すなわち、訴外組合は、本件区域につき昭和二七年三月三一日国から自作農創設特別措置法四一条により売渡を受けその所有権を取得していたので、被告において原告からの訴状別紙(一)記載の区域についての昭和二六年二月二三日付石灰石、ドロマイトを目的とする鉱業権設定の出願を処理するにあたり、訴外組合に対して、昭和三一年三月一日付文書をもつて「貴組合所有の本件区域を含む周辺の土地につき原告から右鉱業権設定の出願があつたが、本通知書受領の日から三〇日以内に、本件区域につき石灰石、ドロマイトを目的とする鉱業権設定の出願をすれば、原告の右出願に優先して処理される」旨施行法七条一項に基づき通知した。そして訴外組合は被告に対し、右期間内である三月二八日に本件区域について、鉱業法施行法第七条の通知に基づく石灰石を目的とする鉱業権の設定出願をなしたので、被告は本件区域について訴外組合を同条二項に基づく優先権を有する者と認めて、これを許可したものであり、右許可処分には何ら違法な点はない。

第五被告の主張に対する原告の認否および反論

一、被告が訴外組合に対し、昭和三一年三月一日附文書をもつて被告主張の内容の通知をなしたとの事実、訴外組合から被告に対し、同年三月二八日、被告主張の内容の出願がなされたとの事実はいずれも不知。

訴外組合が本件区域につき、被告主張のとおりその所有権を取得したとの事実は認める。

二、訴外組合が、本件区域につき施行法七条二項の優先権を有する者であるとの主張は争う。右組合の本件出願は鉱業法二七条のいわゆる一般出願であつて、原告に優先して許可を受くべきいわれはない。その理由は次のとおりである。

(一) 施行法四条乃至七条は、昭和二六年鉱業法改正にさいし、同法上の法定鉱物に石灰石、ドロマイト等を新たに追加するに当り、右追加鉱物について、既得の権利乃至地位を保護するために、一定の者に鉱業出願について優先権を認めている。

しかして、土地の所有者も右の恩恵にあずかりうるわけであるが、施行法七条の保護を受ける土地の所有者は鉱業法の施行時である昭和二六年一月三一日に当該土地の所有者であつて、それ以後に土地を譲受けた者は含まれないものと解すべきである。

(1) 施行法四条乃至六条において、追加鉱物について保護を受くべき者は、追加鉱物を「掘採する者又はその承継人」、「追加鉱物を掘採している者又はその承継人」、「追加鉱物の取得を目的とする土地の使用に関する権利を有している者又はその承継人」であつて、いずれも「承継人」が明記されている。これに対し、施行法七条では「土地の所有者」とのみ規定し「承継人」は規定していない。したがつて、施行法七条の優先権者には承継人を含めないものと解すべきである。

(2) 施行法四条乃至六条の「掘採する者」、「掘採している者」、「権利を有している者」は、いずれも鉱業法施行の際の「者」である。これは、既得の権利乃至地位を保護しようとする経過規定の趣旨からも、施行法四条乃至六条が「承継人」を明示していることからも明らかである。

(3) 右のことからみて施行法七条においても、施行法四条乃至六条と同様に、「土地の所有者」は鉱業法施行時の土地の所有者を指し、それ以後の土地の承継人は含めない趣旨である。また、施行法四条乃至六条の規定の形式からみて、もし土地の所有者を含める趣旨ならば、「承継人」と明記したはずである。

(4) 施行法七条が土地の所有者に優先権を与えた趣旨は鉱業法の施行により、追加鉱物の支配権が土地の所有者の手から分離されるため、土地所有者の既得の地位乃至権利を保護するために設けられたものである。したがつて、保護すべき土地の所有者は鉱業法施行時の土地の所有権者であつて、それ以後に土地を取得した者を保護する必要も理由もない。また、土地の所有者を鉱業法施行時、先願者の出願時、処分時のいずれの時点の土地所有者でもよいと解することは、先願処理の遅速によつて、先願者の鉱業権取得が影響を受け、不公平を生じ、基準として客観性に欠けるものである。

(5) かりに、承継人保護の必要があるとすれば、相続、合併等土地の所有者の地位を包括的に承継する場合だけであつて、特定承継人をも同一に取扱うのは不当である。このことは鉱業法が一般承継と特定承継を別個に取扱つていることからも明らかである。

(6) 本来、鉱業法は先願主義を建前とするものである。右に述べた如く解しなければ、追加鉱物について、鉱業法施行後六ケ月以内に鉱業出願した先願者があるときは、その出願が処分される前に、その土地の所有権を取得することによつて、その者は先願者より優位に立つことができる。これでは先願主義は、追加鉱物については有名無実となる上、先願者の地位は出願処分の遅速によつて重大な影響を受けることとなる。このことを無視して施行法七条を解釈することはとうてい是認できないことである。

(7) 昭和二六年九月八日資庁第五五〇号は、「本条の通知は、新法施行後六ケ月以内の一般出願があつた当時の当該出願区域に係る土地所有者に対して行うものとする」といつているが、これは行政処理上の便宜のため認められる措置であつて、その通知を受けた者が

(イ) 鉱業法施行時の土地の所有者であること。

(ロ) 当該土地について、鉱業法施行時から処分時まで継続して土地の所有者であること。

の二つの要件を備えないかぎり、施行法七条の優先権者とはなりえないものである。したがつて、「土地の所有権者の承継人も本来の優先権者と認めて差支えない」と解するのは、包括承継人はともかく、特定承継人については違法な解釈である。

(8) さらに、「通知する以前に国有林地の売却を受けた者から、通商産業局長に対し譲受けの事実を証する書面を添付の上、同通知をするよう申出があつたときは当該出願について最終処分を了していない限り通知すべきである」という昭和三〇年一〇月二一日鉱局条一〇二三号の解釈は、右に述べた理由および何故に国有林地だけを特別扱いにするのかについて合理的根拠がなく、施行法七条の解釈を誤つており、したがつて訴外組合に対する許可も違法である。

(二) かりに、施行法七条の優先権がその土地の特定承継人にあるとしても、訴外組合が払下げを受けた土地は、優先権が放棄されており同組合は施行法七条の優先権者ではない。

(1) 国有林野地に対する施行法七条一項の通知は、資源庁長官と林野庁長官との間の諒解により省略することになつている。(昭和二六年九月八日資庁第五五〇号)したがつて、林野庁長官は通知を受けるべき権利およびその優先権を放棄しているので、少くとも、鉱業法施行後の昭和二六年九月八日以後、国有林野地の所有権取得者は、重ねて優先権を主張することはできず土地の新しい所有者は通知を要求する権利はなく、また通産局長は改めて通知をなすべきではない。

(2) 資源庁と林野庁との諒解は、国有林野について施行法七条一項の通知を省略しただけで優先権の放棄の意思表示まではなされていないと解することは、形式的な論理であつて、通知を受けなければ、施行法七条の優先出願をする機会がなく、また林野庁では積極的に国有林野地の出願状況を知りえないのであるから、優先権をも放棄しているとみるべきである。

(3) 国有林野地について、林野庁長官が将来の不確定な優先権を一括して放棄することが許されるかどうかについて問題があり、右の諒解は無効とも思われるが、原告の出願は昭和二六年二月二一日であつて、林野庁長官と資源庁長官との間で協議の成立した昭和二六年九月八日の時点においては、施行法七条の通知を受けるべき状態になつており、通知を受けるべき状態にある確定した優先権を一括して放棄することは許されるものと思われる。したがつて、訴外組合の出願地については優先権が放棄されており、同組合は施行法七条の優先権者ではない。

第六原告の反論に対する被告の認否および再反論

一、五五〇号通達により国有林野に対する施行法七条一項の通知を資源庁長官と林野庁長官との間の諒解により省略することになつていることは認める。

二、原告は訴外組合は鉱業法施行後において、本件国有林野の払下げを受けたのであるから施行法七条一項の土地の所有者には該当しないものであるとし、施行法四条乃至六条においては、追加鉱物についての保護を受くべき者の中には「承継人」が含まれるものとされているのにかかわらず七条には「承継人」の規定がないから承継人は七条の優先権者の中には含まれないこと及び施行法四条乃至六条の規定によつて保護される「者」は鉱業法施行の際の「者」であるから、七条の土地の所有者も鉱業法施行の際の所有者に限らるべきであるのにこの解釈を誤つて訴外組合の鉱業出願を原告等のそれに優先するものとして許可したのは違法であると主張する。

しかしながら、施行法七条の規定は追加鉱物が従来法定鉱物とされていなかつたので、これを掘採取得することは土地所有権の内容の一部とされていたので、追加鉱物の賦存する土地の所有権自体を特に一種の既得権益として鉱業法施行の際保護することを目的としたものであつて、七条においては単に「土地の所有者」という一般的表現を用い、施行法四条乃至六条のように「新法施行の際現に……掘採する者又はその承継人は」とか「新法施行の日の六ケ月以前から引き続き追加鉱物を掘採している者又はその承継人が」とか、又は「新法施行の日の一年以前から引続き追加鉱物の取得を目的とする土地の使用に関する権利を有しているもの(………)又はその承継人が」というように優先権者とされる土地の所有者の範囲を時間的に限定する必要がなかつたのである。したがつて、原告主張のように右七条の「土地の所有者」を鉱業法施行時の土地の所有者に限定すべきであるとするのは、七条の置かれた理由を理解しないことによるものであり失当というべきである。

三、原告は施行法七条の優先権がその土地の特定承継人にあるとしても、訴外組合が取得した土地は優先権が放棄されているから、同組合は施行法七条の優先権者ではないとして、国有林野地に対する施行法七条一項の通知は資源庁長官と林野庁長官との間の諒解により省略することとなつている(昭和二六年九月八日資庁第五五〇号)ことを挙げているが、前記五五〇号通達においては、国有林野地については施行法七条の通知は省略して差支えないというにすぎないから、国有林野地については七条の通知を省略することができても、本件のようにすでに自創法の売渡によつて私有地となつた土地にまで七条の通知を省略し、その所有者の優先権を喪失させることはできないものというべきである。

以上述べたとおり、原告の主張はすべて理由がないからその請求は失当として棄却さるべきである。

第七証拠〈省略〉

理由

請求原因事実はすべて当事者間に争いがないので、訴外組合は本件区域に関する本件鉱業権設定の出願について、施行法七条二項の優先権を有するかの点につき判断する。

現行鉱業法(昭和二五年法律第二八九号、昭和二六年一月三一日施行)は、従前の法規の下では土地所有権の一内容とされていた、石灰石、ドロマイト等(追加鉱物)を試掘採掘する権利をも、新たに鉱業権として土地所有権から分離させたため、土地所有者や従前より追加鉱物を現に採掘していた者等のいわゆる既得権を保護するための経過的措置が必要となり、鉱業権設定出願の優先権に関するものとして施行法五条ないし七条の規定がおかれた。

右規定によれば、追加鉱物の従前よりの掘採者もしくは追加鉱物の取得を目的とする土地使用権を有する者等については、右鉱業法施行の日(昭和二六年一月三一日)から六ケ月以内に当該追加鉱物を目的とする鉱業権の設定の出願をしたときに限り、他の出願に対し鉱業法二七条の規定にかかわらず優先権を有するものとされている(施行法五、六条)。しかるに、土地所有者については、右のような方法はとられず、鉱業法施行の日から六ケ月以内に他の者から追加鉱物を目的とする鉱業権設定の出願があつたときは、通商産業局長はその出願地にかかる土地の所有者にその旨通知し、当該土地所有者がその通知の到達の日から三〇日以内に当該追加鉱物を目的とする鉱業権設定の出願をしたときは、優先権を有するものとされている(施行法七条)。

土地所有者の優先権につき、右のような定め方をしたのは、土地所有者の優先権についても従前よりの掘採者等の場合と同様、単に鉱業法施行の日から六ケ月以内に出願した場合に限るとすれば、土地所有者のうちには、追加鉱物の従前よりの掘採者等と異り、追加鉱物を目的とする鉱業権に関心を有しない者もあり、空しく右期間を徒過する者が多いと考えられるところから、鉱業法施行の日から六ケ月以内に出願があつた場合に限り、通商産業局長より土地所有者に対してその旨通知を行うことにより、土地所有者の利益のためその注意を喚起して出願の機会を与えることとしているものと解される。

そして、施行法七条は通商産業局長が右通知をなすべき期限については定めていないが、同条はその通知が遅滞なくなされることを予定しているものと解すべきことは当然であり、他方右通知は鉱業法施行の日から六ケ月以内に出願があつた場合にのみ行われ、また、土地所有者による優先権ある出願は右通知の到達した日から三〇日以内になされたものに限られていることとあいまつて、土地所有者の出願についても結局は、鉱業法施行の日から六ケ月を著しくこえないうちになされたものに限り優先権が認められるにすぎないこととなり、施行法五、六条による従前の掘採者等の優先権の場合との均衡を失わないようにされているものと解すべきである。

ところで当事者間に争いのない事実および成立に争いのない乙第一号証により認められる事実を綜合すれば、本件の事実関係は次のとおりである。

昭和二六年二月二三日原告は、本件区域を含む区域について石灰石、ドロマイトを目的とする鉱業権(採掘権)設定の出願をなしたが、本件区域は国有林野であつたため、資源庁長官と林野庁長官との諒解により(昭和二六年九月八日資庁第五五〇号通達参照)右出願についての施行法七条一項の通知は省略されていたものであるところ、昭和二七年三月三一日右通知がなされないまま、訴外組合が自作農創設特別措置法四一条により売渡を受けて本件区域の土地所有権を取得した。その後被告は昭和三一年三月一日付文書をもつて、訴外組合に対し、本件区域につき右原告の出願があつた旨の施行法七条一項の通知をなし、訴外組合はその通知に基づいて、昭和三一年三月二八日本件区域について石灰石を目的とする鉱業権(採掘権)設定の出願をなしたものである。

右事実によれば、訴外組合の右出願は到底施行法七条の予定する前記期間内になされたものと解することはできず、しかもその原因は本件区域が国の所有に属していた時、林野庁長官と資源庁長官との諒解により、国有林野については、施行法七条一項の通知を省略することになつていたことにあるものと解される。

ところで右のような諒解が存したことは、国はその所有にかかる国有林野については、右施行法七条一項の通知を受けるという、鉱業法上土地所有者のために設けられた制度による利益は享受しないという一般的な意思を表明していたものと解され本件区域についても、原告による前記出願があつたにもかかわらず、右諒解の趣旨により右通知およびそれに基づく出願がなされないまま施行法七条の予想する期間をはるかに徒過してしまつたのであるから、国もしくはその承継人たる訴外組合は、以後はもはや本件区域について右通知を受け、それに基づき優先権ある出願をする権利は喪失したものというべきであり、昭和三一年三月一日付通知に基づく同月二八日の訴外組合の右出願には施行法七条による優先権を認めることはできない。

よつて、訴外組合の右出願に優先権があることを前提としてなされた、当該出願に対する本件許可処分は違法であるから取消すべきであり、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和四三年八月二四日東京地方裁判所判決)

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